基礎講義 アタッチメント 繁多 進 【まとめや感想】
はじめに - なぜアタッチメントに関心をもったか
繁多先生
1965年勤務開始の児童養護施設の状況(40名の児童に対し、保育者5名)から、保育者数の改善が劇的にすすむ過程に身を置く中で、入所児童の発育、行動異常も同様に大きく改善した経験から、maternal deprivation/母性剥奪 を含む、ボウルビィのアタッチメント理論への関心が深まった。
1. ボウルビィについて
ボウルビィがアンナ・フロイトやメラニー・クラインに師事し、精神分析家になったこと。当時は現実体験をシステム的に観察したり分析することは、大切にされていなかったこと。ボウルビィはそんな中、幼い子供が母親から離れる影響を調べるために施設の子供の研究に入っていった。 教科書に出てくる人物をきちんと物語を追いかけることで、興味や理解の深さが全然変わってくる。改めて、読書の大切さを感じた。
そして、自分が関心をもっている「甘え」ということを立体的に理解するためにも、そして、現在の世の中の関心(アダルトチルドレンなどの)からも、アタッチメントを研究することは役に立つな、と思った。
2.アタッチメント理論以前
アタッチメント理論の背景には、ホスピタリズムと精神分析のふたつがある。
欧米では、20世期初頭まで、乳児院での生存率が0%の例があるほどに、劣悪な保育環境であった。環境改善の動きは、1930年頃を境に、以前は身体的なオールドタイプホスピタリズム、以後は精神的なニュータイプホスピタリズムに変化。
ボウルビィがWHOの依頼で研究した結果、ホスピタリズムを包含する、マターナルディプリベーションという概念が生まれた。
欧米では、子供は厳しくしつけるべき、という規範があり、それが上に述べたような状況を生み出したと繁多は述べている。対して日本は、甘やかしの文化があり、それが保育環境が劣悪になることを防いでいたという。
二次的動因説(子供の最初の愛は、欲求充足や生理的快だ) を否定し、ローレンツやハーロウの説を援用することで、ボウルビィはアタッチメント理論にたどり着いた。
3.アタッチメント理論の骨格
(1) アタッチメント、アタッチメント行動、行動システム
精神分析では、人を、本能が壊れた存在とみなし、エス(イド)をどう制御するか、に重点を置いた。
一方で、ボウルビィは、1969年に出版したアタッチメント理論の本で、アタッチメントを本能的なものと捉え、そうした性質や行動が発現することを肯定している。
特定の人物への持続的なアタッチメントと、状況に応じて形成されるアタッチメント行動は、現在は明確に区別されている。アタッチメント行動とは、保護を目的とした生物学的機能で、例えば狩猟時代に捕食者攻撃者からの危険を防ぐために、保護者へ接近する、という行動。この「行動システム」は、生理的システム同様、ホメオスタティックに組織化されている。
アタッチメント理論では、「生まれてから死ぬまでの精神的健康は、アタッチメント対象との関係性と密接に関係する」と主張する。
(2) アタッチメントと依存
dependence / attachment : ボウルビィは、依存という語を避け、アタッチメントという言葉を用いた。
依存は、生まれた時が絶対的で徐々に相対的になっていく。一方で、アタッチメントは、生まれた時はゼロで、6ヶ月で現れ、生涯続くもの。
マターナルディブリベーションが環境に視点を置いたのに対し、アタッチメントは子供視点である。
(3) 生得的行動
乳児には、成人への接近・接触を求める生物学的傾性がある。 entrainment : 身体運動による同期行動
・アメリカ北東部乳児が 英語 / 中国語 に共に反応
・母親 / 医師 差異なし → 「人間による」「人間の言葉」は乳児に固有の反応を引き起こす
ヒトのクリンギング能力は霊長類最低 → 代替機能として信号機構を発達させた
(4) 相互作用
乳児の弁別的行動の発達 (エインスワース)
[ 顔の選好注視 → 見慣れたものを区別・接近 → 結果のフィードバック ]
この過程を経て、特定のアタッチメント対象を選択していく。
スターンは、母子間の、何気ない日々の相互作用をアチューンメントと名付けた。アタッチメント形成には、このアチューンメントが重要であり、食べ物をくれる人=生理的充足をあたえるもの がアタッチメント対象になるのではない。
ヒューズによれば、アチューンメントが欠落すると、感情を介したコミュニケーション経験を積めず、身体的接触をさける、一人行動、概念形成や言語発達の遅れ、関わりの遮断(主観的には安全な方法)といった問題が生じる。
(5) アタッチメントの発達
第一段階(~12週)
生理的不快に泣き叫ぶ / 自他分化以前 / 魔法のテーブルにご飯
第二段階(4~6ヶ月)
3ヶ月微笑から弁別人物へ / 人間の統合的理解以前 / 優しい聖母と意地悪魔女
第三段階(6ヶ月~3歳)
母親が安全基地に / アタッチメント行動が最も活発に / 二次的アタッチメントも
第四段階(3歳~)
設定目標持つように / 母親の設定目標も理解し、関係性複雑化
(6) 設定目標
1歳になる頃までに、子供は、自分の苦悩を終わらせる条件や安全になれる条件を発見する。愛着行動計画の設定目標をもつようになる。ボウルビィは、ワーキングモデルの成立と共に設定目標を持つようになる、と述べている。
(7) 安全基地
B型が最も上質な安全基地をつくることができる。
A型 : 求めても拒否される→悲しい→自衛のため、求めることをやめる
C型 : 母親が魔女49%なのか、魔女51%なのか、決めかねて悩んでる状態
聖女60%だと思えている子供は、B型になる。
A型は諦めている。B型は満足している。C型は揺れている。
(8) ワーキングモデル
ワーキングモデルは、パーソナリティとアタッチメントの橋渡しの役割。
ワーキングモデルは、物事を認知する判断基準として使われる。どんなワーキングモデルをもっているかによって、ひとつの物事の捉え方も変わってくる。
望まれない子供は、母親から望まれていないと感じるだけでなく、自分は本質的に、望まれるに値しない、と感じてしまう。逆に、愛されている子供は、自分は世界から愛されるに足る存在だ、と感じられるようになる。
ボウルビィのワーキングモデル ≒ 内的対象??
○フェアバーンやウィニコットの対象関係論における内的対象との違いは、
「ワーキングモデルに助けられて出来事を知覚し、未来を予測し、自分の計画を作成する」と述べているように、ボウルビィのワーキングモデルでは、情報処理機能を重視している。
これは自我心理学でいう自我機能。相手をみる、ということ。
母親に対してどういうふうに対応するか、が情報処理機能。
安定愛着と障害愛着
アタッチメントに問題がある子供は、自己評価に自己侮蔑が含まれる。他者に対しても否定性の視点がつくられるため、社会的手がかりを誤って解釈する結果をもたらす。
(9)アタッチメントとパーソナリティ
(雑にまとめ)
アタッチメント形成のなかで、親との関係を元に、こどもはワーキングモデルをつくる。
その後、教師との関係でも同様のワーキングモデルを利用、そのABCパターンが内面化されることで、パーソナリティとなっていく、 という感じ?
ボウルビィは、パーソナリティの発達は、一本道ではなく、いい方向悪い方向どうにでも、どの段階でも変化しうるもの、と述べている。
4. SSPとアタッチメントのパターン
エインスワースはウガンダでの乳児研究以前に、すでにボウルビィとアタッチメント概念については共有していたと思われる。母親に対する12の行動指標を観察したこの研究は、ボウルビィのアタッチメント理論構築に大きな影響を与えた。
のちにアメリカのボルチモアで類似の結果と異なる結果。実施場所が自宅や研究室で、乳児のストレスが変わることが原因として、SSPを開発。
エピソード③
母親とストレンジャーを交互に見る。母親をみるのは、社会的参照をしているから。
安全基地が機能してるかを、見知らぬ人をつかい測っている。
エピソード④と⑤
④のストレスフルな状況から⑤で、再び安心→探索行動に移れるか、を見る。
エピソード⑥⑦⑧
⑥は最もストレスフルな環境。④で泣かない子も⑦ではほぼ泣き止みは生じない。
⑧でふたたび、再会をどう喜ぶかを測る。
SSPに二つの再開場面がある理由は第六場面で alone の状況を作るため。
Aタイプが第六場面だけで泣く場合、それは母親との分離への悲しみではなく、一人ぼっちという状態への恐怖。
筆者のエピソード。こちらの努力に報いようとする子もいる。4→5場面で、泣かずにこらえ、母親入室でストレンジャーをみてニコッとする。「気を遣う」というセキュア中のセキュア。
5. アタッチメントのD型
日本でも17%もD型が??
繁多:診断基準の問題ではないか。 「DのB」なんて、臨床的に意味はない。
1歳でDタイプの子は、予後が悪いと言われる。
6歳になったとき、コントロールして暴力的になる、偽りの自己を発展させる、の2パターンになることが多い。
重篤なDタイプのこどもには、動物虐待や火付けもみられる。自身の劣等感や弱小感を有能感に変える手段として、弱い立場の動物や、力と崩壊の象徴である火がつかわれる。
メインは、7つの項目でひとつでも5点以上あればDとしており、D型の診断拡大につながってしまっている。愛着障害=D型ではなく、両者の定義を区別する研究もなされてはいない。
パターン分類の国際差
全人数 | A分類 | B分類 | C分類 | |
---|---|---|---|---|
エインスワースほか | 106 | 22 | 66 | 12 |
日本(斉藤晃) | 157 | 8 | 70 | 22 |
日米の乳児の行動の違い
母と子が一緒にいる4エピソードの平均で、3分間のうち、
1つのエピソードの中で母親を見る回数 | 1つのエピソードの中で発声する回数 | |
---|---|---|
日本 | 5回以上 | 約1回 |
アメリカ | 1回未満 | 5回以上 |
日本では視覚的相互作用が中心だが、アメリカでは聴覚的相互作用を優先させている。
育児法の文化差が要因のひとつとしても、生後1年でこれほど差異が表れるのは驚き。
日本の家の広さも関連?
「目は口ほどに物を言う」は、日本でしか通じない。
10. メンタライゼーション
フォナギーが定義。アレンは活動的なイメージを付与するために、メンタライジングと呼んでいる。
メンタライジングの定義は、
1心で心を思うこと
2自己と他者の精神状態に注意を向けること
3誤解を理解すること
4自分自身を思うこと
5(〜に)精神的性質を付与すること
他者の基本的心的状態や意図だけでなく、自分自身のそれらについても考える、ことが特徴。
乳児と母親に当てはめると、
「母親が自分自身の心の状態にも注意を向けながら、乳児を心を持った存在として、意図や気持ちや望みを備えた人間として、思い描く能力」がメンタライジング能力。
母親が、自身の幼少期の剥奪経験を自主報告できる例では、このような母親の内省機能(リフレクティブ機能)が、子供の母親への安定型アタッチメントを予測させるものであった。
母親の生活史が逆境に満ちているとき、リフレクティブ機能と子どものアタッチメントの安定性の関連が最も強まる。
リフレクティブ機能は、虐待の循環を止め、また、母親の健全なアタッチメントの伝達に効果を持つ。
SSP作成において、エインスワースは、愛着のスタイルを決める最大要因は、母親の感受性と考えていた。
アレキシサイミアは感受性の逆。
cf 高校くらいで不登校の場合アレキシサイミアのスケールが高い
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15. アタッチメント理論に基づく心理療法
治療者の5つの課題
第一の課題 患者に安全の基地を提供すること
第二の課題 患者が探求することを助けること
うまくいかない状況に、どんな無意識のバイアスがあるのか考えること、を励ます
第三の課題 患者との人間関係に、本人のもつワーキングモデル を持ち込ませること
患者が本人や両親について、どんな認識、説明、期待があるのかを知ること
第四の課題 患者の現在の認識や期待、感じ方や行動が、実際の出来事の所産なのか、親に何度も言われてきた結果起きているのか、考えるように励ますこと
第五の課題 第四で述べたワーキングモデルが、現在と将来に適切なのか、本人が検討できるようにすること
これは、認知行動療法の先駆け的。とくに、認知療法には酷似している。
本文引用 —“不適切なスキーマを引き出し、修正する”
作り上げたワーキングモデルは治療者にも向けられる、というボウルビィの言葉から、転移という精神分析の概念も入っていることがわかる。
「物語の一貫性」
物語は経験を客観化し、生の感情を象徴に変えてしまうことによって、悩めるものはそこから離脱することができる
患者に安全の基地を提供するという治療者の役割 (ボウルビィ)
類似
- Holding だっこ (ウィニコット)
- Containing 包み込むこと (ビオン)
ボウルビィの治療原則と共通点の多い分析家
イギリス
アメリカ
16. アタッチメント理論と子育て支援
3ヶ月の自他分化や、人見知りの始まり(7ヶ月頃)など、発達心理学概論で学んだ知識を具体例で学び直せて、より実感をもった知識になった。健全なアタッチメントを作る重要性はわかりやすかったが、少し養育者の都合や思いが置き去りな感じもした。