そうだ、卒論を書こう。

公認心理師を目指す30代男子の学びの記録。放送大学生。

自分をコントロールする力  森口 佑介 【まとめや感想】

第一章 実行機能とは?

[要点]

  • 実行機能とは、目標を達成するために、自分の行いを抑えたり、切り替えたりする能力のこと
  • 実行機能は、社会生活に欠かせない
  • 実行機能が高いと仕事ができたり健康な生活を送れる可能性が高い
  • 実行機能は人間において特に発達している 

[感想] 

「目標に向かって自分をコントロールする力」自体は、多くの人がふつうに、大切だと認識する力だが、「実行機能」という概念としてきちんと捉え直すことで、色々なことがみえてくる。

そして、育てることができる力であり、社会生活で重要な力であることが、きちんと社会で認識されれば、教育の方法や企業研修など、生かす場はものすごく多い。

 

 

 

第二章 自分をコントロールすることの重要性

マシュマロテスト実験の内容を知れて面白かったが、実は信頼性に欠ける、ことは知らず、驚いた。たしかに、生得的な実行機能だけでなく、当然経済状況や学習を通して、実行機能も伸びたり落ちたりするはず。

現在は、イギリスニュージーランドでの縦断研究から、改めて実行機能の大切さが主張されている。

 

 

第三章 実行機能の育ち方

感情の実行機能、思考の実行機能、というふたつの実行機能がある。それぞれをアクセル&ブレーキ、ハンドル に例えてあり、理解しやすかった。

 5.6歳でどちらも急激に伸びる。思考では「頭の切り替え」を「前もって」できることがポイント。

 

 

第四章 自分をコントロールする仕組み

大脳のどの部分が、実行機能に関わっているのか。

[感情の実行機能]

 アクセル : 腹側線条体 (報酬系回路)

 ブレーキ : 外側前頭前野

[思考の実行機能]

 中央実行系回路

 

脳の仕組みと繋げて理解するという展開になって、ぐんと前のめりになった。

自分の関心ジャンルのヒントになるかもしれない。

 子供の脳の働きの実験で、fNIRS装着に際し、「納得して快適に子供につけてもらうことに一番腐心」という記述から、著者の人柄や研究活動のリアルな一面を感じとれた。

 

 

 第五章 岐路となる青年期

非常に興味深い章だった。

学童期 → 青年期 → 成人期

実行機能の発達の仕方でそれぞれの時期を捉えると、青年期だけ特殊な発達をする。

ホールが青年期を "疾風怒濤の時代" と呼んだように、身体や行動だけでなく、実行機能の働き方もこの時期は特徴的なものとなる。

報酬系回路であるアクセルは非常に強力になるが、拮抗する前頭前野部分、すなわちブレーキはゆっくりとしか発達しない。そのため、リスクを軽視した行動が増える。さらに、青年期は、「仲間外れ」に対する感受性が上がることも、実験によりわかっており、仲間への承認行動として、アクセルの強化とブレーキの軽視が起こるという仕組み。

この仕組みが、第二章での縦断研究結果を生む要因のひとつとなる。すなわち、

子供の時実行機能が高い

 ↓

青年期に、反社会的行動リスクが低くなる

 ↓

進学や就職で良い結果を得やすい

 

第六章 実行機能の育て方

虐待の中でもネグレクトは特に実行機能が低くなる。

アタッチメント関係性が作れず安心の基地がないために、感情のコントロールができないことが要因。身体的または心理的虐待も深刻な影響をたしかにもたらす。が、「誰も関わってくれない」状態こそが、もっとも強い悪影響をもたらす。

支援的な子育てと、”適度に”管理的な子育てが大切。”夜に”寝るのも大切。文化、居住地域、親の健康など多くの要因も実行機能低下に関係する。しかし、実行機能向上に関わる要因ははっきりしない。常識的な、生き物が育つために必要な対応を基本にするべし。

 

 

第七章 実行機能の鍛え方

練習と振り返り、運動、音楽、マインドフルネスなど、多くの活動が子供の実行機能を高める上で役に立つ。実験群比較群の例をだし、科学的なエビデンスのあるものを取り入れる大切さを強調していた。子育て、という親にとっても不安や期待の感情が溢れるジャンルでは、多くの人が、感情的に振り回されて、あやしいOOレーニングに食いついてしまうこともあるだろうから、こういう啓蒙は大切。 と共に、筆者がフェデラー選手を例に出していたように、エビデンスのとれていない、こういう逸話のエピソードで感情に訴えかけることも、行動を促す上で大切なこと。要はバランス感覚。 時に感情的になることで行動が始まるし、また、一歩立ち止まって分析したり客観しすることで、きちんと制御できる。

集団での実行機能向上に大切なのが「こころの道具」を使うこと。劇をする、独り言をいう、観察者になる、など、の方法内でバンデューラの社会的学習理論や、ヴィゴツキーの内言が登場し、よい復習になった。

大人の実行機能強化については、メタ分析の例を挙げたうえで、休憩をとり、よく寝る、誘惑に近づかない、という当たり前すぎる結論を述べている。 いきなりよく寝て、誘惑を避けるべし、と言われても、なかなか、聞く側ももやもやするけど、きちんと科学的なデータをあげたうえでだと、常識的な生活と行動がたしかに一番なんだな、と納得することができた。

 

第八章 非認知スキルを見つめて

感情の実行機能は気分や状況に左右される。すぐにマシュマロを食べることが悪いことでもないし、「ご飯の時、好きなもの先に食べる派、取っとく派」みたいに好みも関わる。がんばったことが報われることが保証される状況でないと、そもそも我慢する戦略も意味をなさない。

一方で、目標保持しつつ頭を切り替える、思考の実行機能は、状況に関わらず有用で、かつ、子育てやトレーニングで向上もしやすい。